【どちらを選ぶ?】~繰上げ請求をするか?障害年金を請求するか?~判断のポイント
60歳を過ぎて体調を崩したり、働くことが難しくなったりすると、「働くのもむずかしいので、早く年金がほしい」と考える方が増えてきます。
実際、健康上の理由から老齢年金の繰上げ請求を検討する方は多くいらっしゃいます。
しかし、もし今の体調が障害年金の対象となる可能性がある場合、繰上げ請求をしてしまうと、障害年金をあとから請求できなくなることがあります。
この記事では「繰上げ請求」と「障害年金」の違いをわかりやすく整理し、どちらを選ぶべきか迷っている方に向けて、判断のポイントをお伝えします。

目次
繰上げ請求とは?~65歳からの年金を前倒しで受け取る年金~
本来65歳から受け取る老齢年金を、60~64歳の間で前倒しで受け取る制度です。
60歳の誕生日の前日から手続きができますので、「今すぐ年金をもらいたい」という方には魅力的に見えます。
◆繰上げ請求のメリット
①手続きが簡単
未統合の年金記録はなく、年金記録の整備が不要な場合は、年金事務所で1時間程度で手続きは完了します。自分で時間をかけて考えて作成する書類はありません。
②手続きにかかる費用は原則なし
手続きに必要な添付書類は原則として、通帳コピーなどご自身で無料で用意できるもののみとなります。
※ただし、外国籍の配偶者がいらっしゃる方など戸籍謄本の提出が必要な場合があります
③障害年金と比較して早く入金される
初回の入金は手続きを行った日から約3か月後となります。
早く受け取れる安心感もあり、生活の見通しが立ちやすくなります。
「今のうちに少しでも自分でお金を使いたい」「貯金を減らしたくない」という方には、メリットがあります。
◆繰上げ請求のデメリット
①受給額が一生減額される
本来65歳から受け取る年金を前倒しで受け取るため、前倒しにした月数分、受給金額が減額されます。1カ月前倒しにすると0.4%の減額となるため、最大で24%の減額となります。
例えば、65歳から80万受け取れる年金を60歳から受け取りを開始すると、60.8万円になります(▲19.2万円の減額)
②働いている人は注意~税金や他制度の給付と調整あり~
老齢年金はご自身の「所得」になりますので、受給額が一定額を超えると税金がかかります。
また、会社で働いている/働いていた人は、会社から受け取る給料が一定額以上の方や雇用保険からの給付(失業給付など)を受け取っている方は調整がかかり、厚生年金が減額されます。
③障害年金の請求ができなくなることが多い
例えば、持病があり(その症状で初めて病院を受診した日がもう3年以上前など)、だんだん症状が悪化してきて障害年金の請求を考えている、といった場合、繰上げ請求をすると、障害年金の請求はできなくなります。
繰上げ請求は「早くもらえる」代わりに「一生減額される」制度です。
請求手続きをすると、取り消し・撤回はできませんので、慎重に判断する必要があります。
障害年金とは?~傷病で生活や仕事に制約がある方が対象の年金~
障害年金は、病気やけがで生活や仕事に制限がある方が対象の年金です。
病名で受給が決まるものではなく、傷病によって発生している症状が「どのくらい生活や就労に支障があるか」で判断されます。60歳以上の方でも、初診日(その傷病で初めて病院を受診した日)が厚生年金加入中であれば請求できる場合があります。
◆障害年金のメリット
①税金がかからない/手取りを確保できる
老齢年金と違い、障害年金は非課税です。
また、会社から受け取る給料や雇用保険からの給付との調整はありませんので、会社で働いている人にとっては、全額手取りになるためメリットが大きいです。
②一定額が保証される
老齢年金は完全に自分自身の納付実績が金額に反映されますが、障害年金は等級に応じて受給金額が決まっており、障害厚生年金には最低保証額(※)があります。
※障害基礎年金2級の金額×75% 令和7年度の場合は623,800 円
たとえ未納の期間が長かったとしても、請求にあたっての納付要件を満たせば一定額が保証されるので、老齢年金よりも障害年金の方が高額となる場合があります。
繰上げ請求をした老齢年金より障害年金の方が受給額・手取り金額が多くなるケースが多いため、該当の可能性がある方は、まず障害年金の請求可否と症状が等級に該当するかを確認することをおすすめします。
◆障害年金のデメリット
①保険料の納付実績によっては請求ができない
障害年金の請求をするには、保険料の納付要件(※)が問われます。
この納付要件を満たさない場合は、そもそも障害年金の請求ができません。
※症状を感じて初めて病院を受診した日(初診日)から直近1年に保険料に未納がないこと
※未納があった場合は、これまでの加入期間のうち3分の2以上の納付または免除期間があることが条件
②手続き~入金まで費用・時間がかかり、必ず受給できるとは限らない
障害年金の請求にあたっては、障害年金請求用の診断書が必要となります。症状によっては複数枚診断書の提出が必要です。診断書作成費用は病院によって異なりますが、1通あたり10,000円以上かかる場合があります。
書類を揃えて請求手続きをしても障害年金の認定基準に満たない場合は、不支給です。必ずしも受給できるとは限りません。
手続きを行って審査に3か月ほど時間がかかります。受給が決定して実際に入金されるのはそこから1~2か月後となりますので、実際に年金が受け取れるのは、手続きをしてから半年後くらい、という認識が必要です。
③専門的な書類が多く、自分で申請するのが難しい場合がある
障害年金の請求にあたって、提出が必要な書類が多岐にわたります。
老齢年金の請求は、年金事務所に行って案内に従ってその場で記入し、添付書類もすぐに自分で用意できるものが中心ですが、障害年金の請求においては、医師に作成を依頼するものやご自身で時間をかけて考えて作成が必要な書類が中心になり、準備に2~3か月かかります。
何を用意したらいいかわからない、どう書いていいかわからない…と専門家に相談・手続きを依頼される方もいれば、手続きを諦めてしまう方もいます。
どちらを選ぶとよいか?
繰上げ請求がおすすめの人
◆医師から余命を告げられている
→繰上げ請求をしても遺族年金の金額には影響しないので、自分が使えるよう早く受け取っても問題ありません
◆今すぐお金が必要で、少しでも早く受け取りたい
◆軽度の傷病や一時的な療養で、障害年金の認定は難しい
このような場合は、繰上げ請求によって生活の不安を早く軽減できる可能性があります。
障害年金を検討したほうがよい人
◆医師から「今後も継続して治療が必要」と言われている
◆症状が障害年金の認定基準に該当する方
人工透析などこちらに該当する手術等を受けている方は障害年金に該当する可能性が高いです
◆老齢年金の受給見込額に不安のある方
◆入金が半年ほど先でも問題ない/将来的に安定した支援を受けたい
障害年金は手続きから入金まで時間がかかる一方、非課税で安定した支援が長く続く制度です。
長期的にみると、老齢年金の繰上げよりも経済的に有利なケースが多いです。
まとめ
健康上の理由で働けなくなったとき、「繰上げ請求をすればすぐにお金が入る」と思ってしまいがちです。繰上げ請求をしてしまうと、障害年金の可能性を閉ざしてしまうことがあります。障害年金は非課税で手取りを確保でき、将来的に見れば支給額が多くなる場合もあります。
60歳以上の方が障害年金請求を検討する際には、65歳から受給する老齢年金との比較・選択がポイントとなります。障害年金の請求にあたっても制約がある場合があります。
当事務所では障害年金だけでなく、老齢年金の受給も含めてトータルな視点からアドバイスが可能です。
「自分は障害年金の対象になるか?」「繰上げ請求をしてしまっても大丈夫か?」など心配な点、不安な点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。