60歳になったら年金が受給できる?~老齢年金の繰上げ請求~

体調を崩して仕事を続けることが難しくなったり、治療費がかさんで生活が苦しくなったりすると、「60歳になったし、老齢年金を早めにもらえないだろうか」と考える方が少なくありません。老齢年金の繰上げ請求をすれば、65歳を待たずに60歳から年金を受け取ることができます。最近ではYoutubeの影響もあり、繰上げ請求を希望する人が増えています。
ただし、繰上げ請求には年金額が一生減額されるリスクや、障害年金をあとから請求できなくなる可能性など、注意しておきたいポイントがあります。
目次
繰上げ請求とは?
本来65歳から支給される老齢年金を、60歳から前倒しで受け取る制度です。ただし、誰でもできるわけではなく、老齢年金の受給資格を満たすこと(=10年以上の保険料納付・または免除)が必要です。
10年以上の保険料納付または免除を受け、受給資格を満たしている方は60歳の誕生日の前日から年金事務所で手続きができます。
繰上げ請求を行うと、受け取れる年金額は1か月早めるごとに0.4%ずつ減額されます。
S37.4.2以降生まれの方は60歳で繰上げ請求をした場合は24%の減額となり、この減額は一生続くことになります。
どのような人が繰上げ請求を希望しているのか?
実際に老齢年金の繰上げ請求の相談に来られる方は以下のような理由をお持ちです。
【生活が苦しいから】
・(健康上の理由)自分が病気で働くことができないから/治療費が必要だから
・60歳になって今までよりも給料が大幅に下がって家計が苦しいから
・家族の介護のため、勤務時間を減らして働く予定で給料が減るから
【とにかく年金が早くほしいから】
・多くの身近な人が短命で、年金を受給することなく亡くなったのを見て
・余命宣告を受けている、少しでも早く年金をもらって自分で使いたい
【Youtubeを見て】
・繰上げ請求を勧める動画を見たから

繰上げ請求を勧めるYoutube動画の中には、誤った情報も多く含まれており、年金事務所で実際に相談・説明を受けて繰上げ請求を見送る判断をする人も少なくありません
繰上げ請求は損なのか?得なのか?
繰上げ請求をした場合、年金額は減りますが、早く受け取れることで得をする期間もあります。それは得なのか?損なのか?
請求をする時点ではわかりません。その人が何歳まで生きるか?によります。
年金事務所で繰上げ請求の相談をすると、年金見込額の試算とあわせて「得か損か」の境目となる年齢:損益分岐点を確認することができます。
2025年(令和7年)に繰上げ請求をした方の損益分岐点の年齢は、21年後の2056年(令和28年)に集中しています。(※厚生年金加入状況や家族構成によって異なります)
60歳の方が繰上げ請求をした場合の損益分岐点年齢は約81歳。81歳より長生きしたら、繰上げ請求をせず65歳から受給を開始した方が生涯で受け取る総額は多くなるということになります。
どちらが本当に得なのかは、ライフプランや健康状態によって大きく異なります。
繰上げ請求をする場合に注意すること
繰上げ請求は一度手続きを行うと、取り消しができません。
他にも以下のような注意点があります。
★生涯にわたって減額された年金を受給することになる
★雇用保険の基本手当(失業給付)を受けている月は、厚生年金は全額支給停止になる
→退職を予定されている方は、失業給付の受給が完了してから繰上げ請求をするのが一般的です。失業給付の受給期間が3か月~5か月分となりますので、その分減額を小さくすることができます。
★繰上げ請求をすると障害年金を請求できなくなる(事後重症請求)
障害年金の請求ができなくなる場合とは?
障害年金には①障害認定日による請求と②事後重症による請求があります。
原則として初診日(障害の原因となる傷病ではじめて病院を受診した日)から1年6か月を経過した時点を障害認定日といいます。障害認定日時点で障害年金の等級に該当する状態であることが障害年金の受給条件となります。これが①障害認定日による請求です。
初診日から1年6か月が経過した日=障害認定日時点では、症状は軽かったけれど、時間が経過して症状が悪化した場合は、現時点での症状をもって障害年金の請求をすることができます。これが②事後重症による請求です。事後重症による請求の期限は65歳の誕生日の2日前となります。
65歳以降の症状の悪化は障害ではなく、加齢によるものとみなされますので、障害年金ではなく老齢年金を受給することになります。繰上げ請求=加齢を理由とした老齢年金を前倒しで受け取ることですので、繰上げ請求をすると障害年金の②事後重症請求はできなくなります。
繰上げ請求を検討している方の中には、障害年金の対象になる方も少なくありません。障害年金の方が支給額が多く、非課税のため有利なこともあります。
障害年金受給の可能性
もし今、病気で日常生活や仕事に支障がある場合、老齢年金の繰上げ請求よりも障害年金を請求したほうが良いケースがあります。
障害年金は、65歳前に初診日があることなどの条件を満たせば、年齢にかかわらず請求が可能です。しかも、障害年金は非課税で、金額も老齢年金より高くなる場合があり、長期的に見れば生活の安定につながります。
ただし、繰上げ請求をしてしまうと、障害年金をあとから請求できなくなることが多いため、まずは「自分が障害年金の対象になるか」を確認してから判断するのが安心です。
まとめ
老齢年金の繰上げ請求は、「すぐにもらえる安心感」がある一方で、「一生減額される」「障害年金が請求できなくなる」などのリスクもあります。健康上の理由で働けないときこそ、焦らず、自分にとって最も有利な制度を選ぶことが大切です。
繰上げを検討されている方は、まず一度、障害年金の受給可能性を確認してみてください。制度の違いを正しく理解することで、後悔のない選択ができるはずです。
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Youtubeや友人からの情報は要注意~慎重に判断を~
YouTube動画の中には「繰上げしたほうが得!」という主旨の動画が多く存在します。しかし、その中には誤った情報も少なくありません。
年金記録はその人の人生であり、全く同じ年金記録は存在しません。
たとえ同じ会社に同期で入社し、同じ記録であったとしても、家族構成や健康状態が違うため、受給にあたっての考え方は同じとは限りません。あてはまるケースもあれば、そうでない場合もあります。友人からの情報も自分にとってあてはまるとは限りません。
動画や友人からの情報を鵜呑みにせず、まずは年金事務所など公的な相談窓口や社会保険労務士など専門家に個別相談して判断することが大切です。