社会人の学び直しに~教育訓練給付制度~利用体験談も

制度解説

アデコ株式会社が実施した社会人の「学び直し」に関する調査によると、7割以上のビジネスパーソンが「今後働いていくうえで『学び直し』が必要である」と回答しています。
私自身は就職してからの方が圧倒的に勉強をしていますが、多くの方が「学び直し」をしたいと考えているようです。学び直しに利用できる教育訓練給付制度と実際に私が利用した時の体験談を紹介します。

1.リカレント教育とは

「リカレント教育」という言葉を最近耳にすることはありませんか?リカレントとは「繰り返す」「循環する」という意味で、社会に出た後もそれぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことです。
社会人になってから自分の仕事に関する専門的な知識やスキルを学ぶため、「社会人の学び直し」とも言われています。仕事に生かすための知識やスキルを学ぶという点が生涯学習との違いです。

2.教育訓練給付制度

「社会人の学び直し」に利用できる制度である「教育訓練給付制度」があります。
この制度は、労働者の主体的なスキルアップを支援するため、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了した方に対し、その費用の一部が支給される制度です。

教育訓練は以下3つの種類があり、それぞれ給付率が異なります。

教育訓練の種類と給付率

A:専門実践教育訓練とB:特定一般教育訓練は、訓練前にハローワークでキャリアコンサルティングを受ける必要があります。

詳しい制度の内容とそれぞれに該当する資格・講座リストは厚生労働省の教育訓練給付制度ページをご覧ください。

3.給付条件

給付条件を簡単に図で表すと以下の通りです。

初めて制度を利用する場合は、雇用保険加入期間が1年以上(A:専門実践教育訓練の場合は2年以上)必要となります。利用2回目以降は、前回受講を開始した日から3年以上経過している必要があります。ただし、※の注記がありますので要注意。

ただし、平成26年10月1日以降に教育訓練給付の支給を受けている場合、前回の支給日から今回の受講開始日までに3年以上経過している必要があります。

厚生労働省資料 教育訓練給付制度のご案内

離職から1年以内でも利用が可能です。離職後に初めて利用する場合は、在職中と同様に雇用保険加入期間が1年以上(A:専門実践教育訓練の場合は2年以上)必要となります。

4.私の利用体験談

私も教育訓練給付制度を利用したことがありますので、その時のエピソードを紹介します。(1)~(4)を時系列にすると以下のようになります。

(1)制度を知らなくて損をする

私は当時、全社の人材育成に関する仕事をしていました。「会社経営のことをきちんと知れば、自分が考えた企画が通ったりもっと賢く振舞えるのではないか?」という思いがあり、中小企業診断士資格を取得しようと思い立ちました。
当時、教育機関の営業担当の方と関わりがあり、安く受講できないか相談をしたところ法人割引を提示してくださり、その割引に満足してそのまま講座の申し込みを行いました。約30万。

教室での講義が始まり、周囲の人が謎のロゴがついた受講証を持っていて、講義の都度受付でスタンプを押していたので、「それ、何ですか?」と聞いたところ、教育訓練給付制度だと教えてくれました。その時、私は初めて制度の存在を知りました…

中小企業診断士コースはCの一般教育訓練なので20%が給付されます。修了すれば約6万の給付で法人割引よりも圧倒的に得でした。既に講座が始まってしまっているので、制度は利用できず
次に何か資格を取りたいと思った時は絶対に利用しよう!と心に決めました。

(2)初めての利用~モヤモヤが残る~

会社は定時帰りで仕事内容も物足りず、体力が有り余っていた時、極端な話「暇つぶし」くらいの位置づけで、中小企業診断士の合格直後なら勉強しやすい!という触れ込みで、米国公認会計士を取得しようと思い立ちました。

教育訓練給付制度を利用して講座の申し込みを行いました。米国公認会計士はCの一般教育訓練なので修了時の給付は20%です。
財務会計・管理会計は比較的楽しく履修していたのですが、英語が得意なわけではないので、英語で税法や監査を学ぶことには限界を感じ、挫折しました。。。
修了条件となる試験は本当に基本問題ばかりで、履修済みの財務会計・管理会計からほとんど出題されていたので、問題なくクリアしました。修了証と手続き書類が届いたので、人生で初めてハローワークへ行きました。

ハローワークでは教育訓練給付金窓口の方と簡単な面談がありました。

「いつ試験を受験されますか?」
…未定です。
「それはなぜ?」
…現時点、理解が不十分で試験を受験できる実力が不足しているからです。
「じゃあ、いつ受けるの?」
…年内には…米国の大学の単位も必要で経済的な負担も大きいので・・・(だんだん声が小さくなる)

自信を持って答えることができず(窓口の方も怖かったです)、正直その場から逃げたくなりました。受講料は約50万で上限いっぱい約10万円給付されましたが、申し訳ない思いでモヤモヤが残りました。次利用するときは、合格の意思をしっかり持ってやろう!と思いました。

(3)2回目の利用で社会保険労務士を取得

2017年に創業スクールに通っていました。そこで社会保険労務士資格の取得を勧められ、前回の利用から3年経過しているので、再び制度を利用しようと思い、講座の申し込みをしました。2017年当時は社会保険労務士のコースはC:一般教育訓練20%給付でしたが、2019年から社会保険労務士はB:特定一般教育訓練で40%に格上げされました。

今回は暇つぶしではなく、本気で合格を狙う決意で始めたので一生懸命取り組みました。修了試験も問題なくクリアし、修了証と手続き書類が届いたので、試験が終わった後に再びハローワークへ行きました。

窓口の方と再び面談。「試験はいつですか?」と聞かれ、「先週受験しました」と答えました。これからの資格の活用についても質問され、当面は企業の中で活かせる道を模索したいとその時は回答しました。前回の反省を踏まえ、今回は面談では自信を持って答えることができました。
受講料は約17万でしたので20%の3.5万円が給付されましたが、お金が戻ってきて嬉しいよりも、反省を踏まえてやり切れてよかったという思いの方が強かったです。

(4)離職して個人事業主になっても利用できる?

2021年に離職し、3か月後に個人事業主として社会保険労務士事務所を開業しました。企業にいる時よりもはるかに学ばないといけないことばかりの日々です。
事業領域を広げるため、教育訓練を受けたいと思っているのですが、離職後1年以内の私も制度が利用できるのかな?と思い立ちました。
離職後1年以内であれば、制度の利用は可能ですが、それは労働者として「就職」(=雇用保険料を支払う働き方)をすることが前提となりますので、残念ながら個人事業主になった私は制度の対象外ですね。
離職する前に利用しておけばよかったと後悔しています。

5.まとめ~学んでムダになることは何もない~

めでたく資格取得ができればハッピーですが、挫折してしまった教育訓練でも決して無駄になることはないと私は思っています。
もう米国公認会計士になることはありませんが、会計処理を学んだから、企業では経理部門の方が行う処理であったり、業績管理における考え方がわかるようになり、社内ルールの理解が促進されました。
今は個人事業主としてお金の流れを把握・管理するスキルが必要です。会計ソフトを使っていますが、自力で仕訳もできますので、操作もスムーズにこなすことができ、お金の管理もなんとかやれています。

この制度は会社員の方が利用できる特権ですので、少しでも「学び直したい」という思いがあれば、ぜひ積極的に利用されることをお勧めします!
将来は独立したい!という方も、会社を退職する前に、自分が利用できるコースがないか是非チェックしてみてください。