厚生労働省より2021/12/24に令和3年(2021年6月1日時点)の障害者雇用状況集計結果が公表されました。
民間企業の法定雇用率が2021年3月より2.2%→2.3%に上昇しました。そのため、今回より常用労働者数が43.5人~45.5人未満の企業も集計結果の対象となっています。最新の障害者雇用状況にはどのような傾向があるのでしょうか?データから考察してみます。
1.全体の概況
雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高となりました。
雇用障害者数は59万7,786人で前年比3.4%上昇しました。実雇用率は2.20%で前年比0.05ポイント上昇しています。一方、法定雇用率達成企業の割合は47%で1.6ポイント低下しています。常用労働者数43.5人~45.5人未満の法定雇用率達成企業の割合は35.1%でした。
2.法定雇用率未達成企業の内訳
未達成企業は56,618社でそのうち1人も障害者を雇用していない企業は57.7%の32,644社です。1人採用すれば法定雇用率が達成できる企業は63.9%であり、この傾向に大きな変化はありません。
1人目の障害者雇用が大きなハードルになっているように感じられます。
3.企業規模による障害者雇用の傾向
◆企業規模によって、雇用されている障害者の傾向に違いはあるか?
企業規模別雇用状況データを踏み込んで考察してみます。法定雇用率の計算上、重度障害者は2人、短時間勤務は0.5人として算定しますが、実際の職場をイメージできるよう、実際に雇用されている人数(頭数)でまとめると以下の表となります。
企業規模別の各障害者数を割合で表示すると以下の通り
全体の傾向として、企業で働く障害者のうち約半分が身体障害者です。新たに障害者雇用義務が発生した43.5人~45.5人未満の企業では、知的障害者の割合が高いようです。単に障害種別だけを見れば企業規模で大きな違いはありませんが、勤務時間に着目してみます。
勤務時間が週20時間以上30時間未満の場合は短時間労働者としてカウントされます。
◆勤務時間に着目~短時間勤務で働く人の割合は?~
企業規模が大きくなるにつれて、短時間労働者の割合は低くなる傾向があります。
身体障害者では企業規模に関わらず、8割以上が週30時間以上勤務しています。知的障害者・精神障害者においては、1000人以上の企業では身体障害者と同様80%以上の方が週30時間以上勤務されていますが、100人未満の企業では約半数が短時間勤務となっています。
ある程度の人数規模の企業では、全社の間接業務を集約させて1つの部門で行うといった取り組みなど、業務の創出や障害を持つ人が勤務しやすい環境を作っている企業も多いと思われます。しかし、100人未満の企業では、担当する業務のボリュームが少ない、ノウハウが少なく様子を見ながら試行しているといった背景があると思われます。
初めて知的障害者・精神障害者を雇用するという企業は、まずは短時間の勤務からスタートし、その方の個性に着目し、できること・できないことを確認しながら、徐々にノウハウを蓄積していくことをおすすめします。
4.業種別障害者雇用状況の動向
こちらは働きやすさを見るため、雇用率算定上の人数(重度の方はダブルカウント、短時間は0.5人)を障害者数とします。業種別では、「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」 「複合サービス事業」以外のすべての業種で前年よりも雇用されている障害者数は増加しています。
特に 「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」 は新型コロナ感染症の影響を大きく受けており、一般従業員の雇用維持も大きな課題となっていますので、雇用されている障害者数は前年より約4%減少しています。この2業種では、特に身体障害者数が前年より減少しています。
◆知的障害者・精神障害者の割合が多い業種は?
身体障害者・知的障害者・精神障害者いずれも、約6割の方が製造業・卸小売業・医療福祉の3業種にて雇用されていますが、身体障害者・知的障害者・精神障害者それぞれの割合が高い業種トップ3を見てみます。
以下のような傾向があります。
どの業種も身体障害者が占める割合が高いのですが、「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」は知的障害者の占める割合が身体障害者の占める割合を上回っているのが特徴的です。
相対的に知的障害者の方が多く活躍している業種ではありますが、先述の通り新型コロナ感染症の影響を大きく受けています。今後は「農、林、漁業」や「医療、福祉」に従事する方が増えていくかもしれません。
5.まとめ
法定雇用率の上昇を受け、民間企業における雇用障害者数・実雇用率は上昇しています。
新型コロナ感染症により、新しい生活様式にあわせた業態変化を求められている企業も多い状況と思います。業態が変われば、仕事のやり方も変わるかもしれません。仕事のやり方が変わることで、障害を持つ人が活躍できるフィールドが新たにできるかもしれません。
例えば、テレワークの促進・拡大によって、通勤やオフィス環境など勤務の支障となっていた問題がクリアになり、採用可能な人材の幅が広がったり、安定して勤務できる方も増えたのではないかと思われます。
社会的な義務として障害者雇用を実施している企業も多いと思いますが、新しい生活様式・新業態への変革に、障害を持つ方の視点が生きる可能性があります。前向きな発想で障害者雇用を考える企業が増えると嬉しく思います。