【2022年版】中小企業白書・小規模企業白書

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2022/4/26に中小企業庁より、中小企業白書・小規模企業白書が公表されました。これらは毎年5月に中小企業庁から発表される、中小企業の動向を詳細に調査・分析したものです。
業界動向や行政施策動向を把握し、相対的な位置づけをはかることができますので、自社の経営・運営のヒントを掴むこともできます。

白書自体はそれぞれ約700ページ・400ページと超大作です。なので、それらを要約した「概要」(全76ページ)を読むことをおすすめしますが、これから事業の立て直しをしたいと考えている小規模事業者の方向けに、それをさらに抜粋し内容をまとめてみました。今回の白書は、事業者の「自己変革」をテーマとし、必要な取り組みを取り上げています。

1.中小企業における足元の感染症への対応

キーワードは「事業再構築」

(株)東京商工リサーチ「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」によると、宿泊業・飲食サービス業を中心に各業種約10%~20%程度が事業再構築を実施しています。「1年以内に行う予定」という企業も含めると各業種約20%~40%に相当します。

事業再構築に取り組んだ企業のうち34.9%が効果が出始めていると実感しています。そして早期に取り組んだ企業ほど既に効果を実感しています。事業再構築は売上面の効果だけにとどまらず、新規開拓した販路の既存事業への活用など、既存事業とのシナジー効果も出ているようです。

「事業再構築」の具体例としては、温泉旅館がサテライトオフィス事業を開始、あわせて有名パティスリーショップなどのテナントを誘致し、地元客の需要の取り込みを図った事例が紹介されています。収益確保だけでなく知名度向上と既存事業へのよい影響もあったそうです。

自社の経営資源や強みを正しく捉え、それを活かして世の中の需要を取り込むために新たな挑戦をすることが、生き残るポイントです。

2.企業の成長を促す経営力と組織

企業の成長を促す方法として、人的資本・研究開発・IT資本等への投資をはじめとする無形資産投資の増加も成長を促す方法の一つです。無形資産投資の増加が有形資産投資と比べて生産性をより向上させるとの分析があるそうです。キーワードをいくつかピックアップします。

ブランド構築

ブランド構築は、オリジナルの付加価値を有し、適正価格を付けられる価格決定力を持つことが考えられます。ブランドの構築・維持を図る取組を行っている企業は、自社ブランドが取引価格へ寄与していると回答した割合が高いというデータが公表されています。

つまり、ブランド力を向上させることで、値下げしなくてよい・意図した金額で売ることができる、ということです。コンセプトを明確にすることと、それを正しくお客様に浸透させることが重要です。ロゴの作成や変更もこの取り組みに含まれます。これにより、販路の拡大や利益率の向上が見込めます。

人的資本への投資

(株)帝国データバンク「中小企業の経営力及び組織に関する調査」 によると、経営者が重視する経営課題のトップは「人材」で82.7%です。白書では、計画的なOJT研修やOFF-JT研修を実施し、従業員の能力開発に取り組むことが重要と記されています。

ここでは、イベント事業を行う企業が事例として紹介されています。

従業員は26名の会社ですが、年間500万~600万円程度を研修に費やし、従業員に継続的に学びの機会を提供していたことで、学ぶことが組織風土として定着します。その結果、従業員が課題認識を持つようになり、新規事業を発案したり、前向きに課題解決に向き合うようになり、業績が回復しているという事例です。

1人あたりで換算すると、約20万の投資です。しっかりとお金をかけて、人材への投資・能力開発をすることが業績回復・成長への一歩となりそうです。

3.小規模事業者における事業見直し

個人事業主を含む小規模事業者の2021年の売上高は、73.9%が2019年と比較して減少していて、厳しい経営環境に直面しています。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「小規模事業者の地域での連携や課題解決への取組に関する調査」によると、組織形態や資本金の多寡によらず、小規模事業者は積極的に事業見直しに取り組んでおり、個人事業主の76.1%が事業見直しに取り組んだと回答しています。

事業見直しは以下のような軸で分類でき、パーセント表示は取組状況です。

既存市場新規市場
既存の製品
サービス
市場浸透
69.6%
新市場開拓
40.9%
新規の製品
サービス
新商品開発
53.5%
多角化
17.2%

小規模事業者の約7割が既存市場に対して、既存の製品・サービスを展開する「市場浸透」に取り組んでおり、市場浸透のために情報発信の強化や商品・サービスの向上に取り組んでいる小規模事業者が多い実態です。

事業見直しを実施するにあたり、直面した課題トップ3は以下の通り

①知識・ノウハウ不足
②販売先の開拓・確保
③自己資金不足

これらは支援機関が得意とする領域なので、支援機関の活用を白書では勧めています。事業見直しに支援機関を活用した小規模事業者は、活用しなかった小規模事業者より、今後の売上への期待度が高いというデータが出ています。

一人で悩んで今後の取り組みを手探りで進めていくより、専門家に相談した上でお墨付きをもらった取り組みを進めていく方が、自信や期待感も前向きなものになりますね。

4.【共通基盤】デジタル化・経営力再構築伴走支援

デジタル化

デジタル化により業務効率化などに取り組む事業者が増えています。白書の中でデジタル化の取り組み段階は4ステップ定義されており、以下のイメージです。

段階1:紙や口頭による業務中心でデジタル化されてない
段階2:電子メールの利用や会計業務の電子処理業務でデジタルツールを利用している
段階3:売上・顧客情報や在庫情報などをシステムで管理し業務フローの見直しを行っている
段階4:システム上で蓄積したデータを活用して販路拡大、新商品開発を実践している

現在は段階3の事業者が最も多く46.7%です。段階2が34.9%、段階1が8.2%です。
段階4の状態がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組めている状態で、10.2%となります。
取組段階が進展するにつれて、営業力・販売力の維持・強化をはじめとする個々の効果を実感する事業者の割合は高くなっています。

経営力再構築伴走支援

白書では、経営者自らが自己変革を進めるためには、支援機関との対話を通じて、経営課題を設定することが重要で、第三者である支援者・支援機関が、経営者等との信頼関係を築き、対話を重視した伴走支援を行うことが有効と書かれています。

キーワードである「自己変革力」を高めるためには、経営課題解決だけではなく、「経営力そのもの」に迫る的確な課題「設定」が重要としています。

自分自身では「これが私の強みだ」「このサービスがウリ」と思っていたとしても、客観的に見てみると、それ以外にも新たな強みが見つかったり、商品・サービスの気づかなかった魅力的な一面が発掘されるかもしれません。また、自分自身が目指す状態を明らかにすることや、それを他の人と共有することで、やるべき取り組みが見えてくることもあります。

そもそも、事業を推進する上で、的確な課題が設定されていないと、この方向性でいいのかな…と自信がない状態で動き始めることになり、せっかくの新しい取り組みも効果が得られない結果となってしまいます。

事業の再構築・事業の見直しは、一人で悩まず協力者を活用しながら、推進していくことがポイントになりそうです。

ここまで紹介した内容は概要の一部になります。詳細なデータ・グラフや事例については、こちらの概要ファイルを確認してみてください。